Katarina Lab(カタリーナ・ラボ)
Katarina Labブログ

「目を動かすって、まじで心理療法なの?」――EMDRってなに?を正直に話します

公開日 2026年08月18日

EMDRという心理療法があります。
日本語では「眼球運動による脱感作と再処理法」。
……もう名前からして難しい。気を抜くと私もすぐ忘れそうになる。
でも、ものすごく簡単に言ってしまうと、つらい記憶を思い浮かべながら、目を左右に動かしたりする心理療法です。
私が最初に聞いたときの感想は、
「目を動かして……だから何?」
でした笑。
子どもの頃、意味もなく目だけ右、左、右、左って動かして遊びませんでした?
私はやりました。
「あれが心理療法になるの?」
「まじで?」
と思いました。
心理士の私ですらそう思ったのですから、初めて聞いた方が「怪しくない?」と思うのも無理はありません。

ところが、ちゃんと学んでみると、もちろん「ただ目を左右に動かせばいい」という話ではありませんでした。
ちなみに、日本EMDR学会もEMDRを「PTSDに対して、エビデンスのある心理療法」と説明しています。
……めちゃギャップですよね。
私の「目を動かして何さ」と、「エビデンスのある心理療法」の間の距離笑。
EMDRでは、つらい記憶を安全に扱えるよう準備したうえで、その記憶や感情、身体の感覚などに注意を向けながら、左右交互の刺激を使って記憶の処理を促していきます。

「まじで想像するだけ!?」と思いますよね

もうひとつ、よく言われることがあります。
「結局、思い出すだけですよね?」
「想像するだけで、何が変わるんですか」
……分かります。私も思いました。
でも、ここは少し考えてみると面白いところなんです。
今、あなたを苦しめているトラウマは、「今」目の前で起きている出来事ではありません。
その出来事自体は、もう過去にあります。
でも、そのときの記憶やイメージ、感情、身体の感覚などが残っていて、今も反応を引き起こすことがあります。
もちろん、これは「気のせい」という意味ではありません。
むしろ逆です。
思い出しただけなのに、心臓が速くなる。手が冷たくなる。眠れなくなる。何年経っても、その場面が浮かぶだけで身体が反応する。
記憶には、それだけの力があるということです。
そして、今の苦しさに「記憶」が大きく関わっているのなら——
その記憶に直接はたらきかけていくというのは、そんなに不思議なことではないのかもしれません。
外側の出来事はもう変えられません。
でも、自分の中に残っているものになら、手が届く。
EMDRがやろうとしていることを、ものすごくざっくり言えば、そんなふうに私は捉えています。

とはいえ、「もっとメカニズムの話をしてよ」と言いたいですよね

分かります笑。
「記憶に働きかける」と言われても、なんかふわっとしてる。
もうちょっと目に見える形で、脳がどうとか、そういう説明をしてほしい。
なので、少しだけ脳の話をします。
研修などでは、「眼球運動で左右の脳を刺激する」という説明を聞くことがあります。私もそう習ったことがあります。
ただ、正直に書きます。
EMDRがなぜ効くのか、その仕組みはまだ完全に分かっているわけではありません。
いくつかの考え方がある中で、現在かなり研究されているもののひとつが、「ワーキングメモリ」という考え方です。
頭の中の「作業台」の話
ワーキングメモリというのは、ざっくり言うと頭の中の作業台のようなものです。
何かを考えたり覚えておいたりするとき、私たちはこの作業台を使います。
そして、この作業台には広さの限りがあります。
さて。
つらい記憶を思い出すというのは、この作業台の上に、その記憶を広げるようなものです。
そこに、目を左右に動かすという別の作業を同時に乗せる。
すると、作業台がちょっと混み合います。
記憶だけに使えていた場所が減る。
その結果、思い浮かべている記憶の鮮明さや、それに伴う嫌な感じが弱くなるのではないか、と考えられています。
そして、そのような状態で記憶を扱うことが、記憶の感じ方の変化につながっているのではないか。
——というのが、ワーキングメモリを使った説明です。
完全に仕組みが解明されたわけではありませんが、私はこれを知ったとき、
「なるほど。そう考えると、ちょっと分かる」
と思いました。
で、ここが面白いんですけど
研究では、眼球運動だけではなく、記憶を思い出しながら別の課題をすることでも、記憶の鮮明さやつらさが弱くなることがあると報告されています。
たとえば、数を数えるなど、頭を同時に別のことにも使う方法です。
課題によって差がある可能性もあり、「何をやっても眼球運動とまったく同じ」とまでは言えません。
でも、
大事なのは、ただ目を左右に動かしているだけではないらしい。
「思い出しながら、同時に別のことにも頭を使う」というところにも意味がありそうだ。
ということは分かってきています。
なんだか、ちょっと拍子抜けしませんか笑。
でも私は、こういう研究を知って、むしろ「なるほどな」と思いました。
EMDRでは眼球運動以外の刺激が使われることもありますし、「目を動かすこと自体に不思議な力がある」と考えなくてもよさそうだからです。
なお、このあたりは今も研究が続いています。
EMDRがどうして効くのかを、一つの理屈だけですべて説明できるところまでは、まだ来ていません。
なので、ここも「今のところ、こういう説明があるんだな」くらいで読んでください。
そして研究は、もっと他の人に任せたいと個人的には思っています笑。

ちなみに、目を動かすのが苦手でも大丈夫です

ここまで「目を動かす、目を動かす」と書いてきましたが。
目を動かすのが苦手でも大丈夫です。
実は私自身、目を動かす方法はあまり得意ではありません。
「ちゃんと目を動かさなきゃ」
「今どこ見てる?」
と、目の動きばかりに神経が向いてしまう。
いや、過去の記憶どころじゃない。
今、私の関心は完全に目!!
となってしまいます笑。
EMDRでは、眼球運動以外にも、左右交互の刺激を使う方法があります。
なので、
「目を動かすの苦手なんですけど……」
という方もご安心を。
私もダメな人です笑。
逆に、皆さん上手いなぁといつも思っています。
「じゃあ別の方法にしようか」で大丈夫です。
こういうところも、私は心理療法を「絶対このやり方でやらなければいけないもの」とは考えていません。
大切なのは、目を上手に動かすことではなく、あなたが安心して自分の記憶と向き合えること。
そのための方法は、一緒に探していけばいいと思っています。

何を目指しているのか

最後に、EMDRで何が起きることを目指しているのか。
「あんなことがあった」。
出来事そのものがなくなるわけではありません。
記憶を消す治療でもありません。
でも、
「今も起きているようにつらい記憶」から、「確かにあったけれど、もう過去の記憶」へ。
そんな変化を目指していく心理療法です。
「忘れよう」
「気にしないようにしよう」
「考え方を変えよう」
と頑張るのとは、少し違う道です。
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目を動かして何さ!と思っていた私が、今では実際のカウンセリングで使っています。
そして実際に、EMDRを通して少しずつ楽になっていく方もたくさん見てきました。
だから私自身は、EMDRが効く仕組みについて細かなところまで完全に説明できることよりも、目の前のクライアントさんが実際に少し楽になって、
「なんかいい」
と感じられることのほうを大切にしています。
目の前のクライアントさんが楽になって、「なんかいい」と思えるなら、
私はそれが最高だと思っています。
過去の記憶がしんどくて、これを読んで「EMDRをやってみたい」と思った方にとっては、それもひとつの選択肢かもしれません。
EMDRの仕組みや効果について、もっと詳しく正確に知りたい方は、日本EMDR学会のサイトをご覧ください。そちらのほうがずっときちんと書いてあります。
そして、私よりもっと専門的な先生が詳しく書いているページもたくさんあります。より専門的に知りたい方はそちらへ。
ここでは、これからも「私自身でもわかる話(私難しい話苦手なんです笑)」「私は、実際こう思ったよ」という、私見もたっぷり入った話を書いていこうと思っています。

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